豊郷小学校旧校舎群は、1937年(昭和12年)、当時丸紅の専務取締役であった古川鉄治郎氏の私財を元に建設されました。この壮麗な建物は、建築家ウィリアム・メレル・ヴォーリズ氏の設計によるもので、竹中工務店が施工を担当し、神谷新一氏が現場監督として指揮を執りました。当時としては非常に珍しかった鉄筋コンクリート造の校舎で、その豪華さから「白亜の殿堂」や「東洋一の小学校」と称されました。
この校舎は、暖房設備など当時最先端の技術が惜しみなく使用されており、総工費は365,000円に達しました(当時の村予算の10倍に相当)。特に階段の手摺には、イソップ寓話「兎と亀」をモチーフにしたブロンズの装飾が施されており、これは後に校舎保存運動のシンボルともなりました。校舎は、2009年(平成21年)に耐震工事を経て、現在は町の複合施設『豊郷小学校旧校舎群』としてリニューアルされ、一般公開されています。
豊郷小学校旧校舎群は、2009年4月から放映されたアニメ『けいおん!』(京都アニメーション制作)の舞台モデルとして注目されることとなりました。校舎が登場する架空の高校に酷似していたため、多くのファンが「聖地巡礼」としてこの校舎を訪れるようになりました。これに伴い、豊郷町観光協会は旧校舎内に観光案内所を設け、商工会は町おこしの一環としてカフェを開設するなど、地域全体で観光客を迎える体制が整えられました。
豊郷小学校旧校舎群は、2012年9月21日に文化審議会の答申により、国の登録有形文化財に指定されました。この校舎は、歴史的価値だけでなく、地域の象徴としても多くの人々に愛され続けています。
2011年からは「とよさと軽音楽甲子園」という全国規模の高校生バンドコンテストが旧校舎の講堂を舞台に開催され、全国の高校生バンドが最優秀賞である文部科学大臣賞を目指して腕を競い合っています。アニメの舞台として使用されたことに加え、このコンテストの開催によって、新たな教育振興の場としても旧校舎が活用されるようになりました。
豊郷小学校旧校舎群は、その独特の雰囲気や美しい建築から、多くの映画やドラマのロケ地として使用されています。例えば、映画『逆転裁判』(2012年)、映画『だいじょうぶ3組』(2013年)、映画『僕は友達が少ない』(2014年)、NHK連続テレビ小説『べっぴんさん』(2016年)など、幅広い作品でその美しい校舎が映し出されています。
豊郷町は、旧校舎の保存や管理を目的とした寄付やふるさと納税を募り、これらの収入を活用して校舎の保存活動を行っています。また、季節ごとにライトアップやイルミネーションなどのイベントも行われ、市民や観光客に楽しんでもらえるよう工夫されています。
豊郷小学校の歴史は、1873年(明治6年)に四十九院村など7つの村が協力して設立した成文学校、達務学校、先進学校の3つの小学校に始まります。これらの学校は専用の校舎を持たず、寺院の庫裏や本堂を使用していましたが、1887年(明治20年)、当地出身の豪商・薩摩治兵衛らの寄付により、初代校舎が建設されました。その後、1937年に丸紅の専務取締役であった古川鉄治郎氏が学校の新築費用を寄付し、2代目校舎が建設されました。
しかし、大野和三郎町長が2代目校舎を取り壊し新校舎を建設する計画を発表すると、住民たちは歴史的建造物を守ろうと「豊郷小学校の歴史と未来を考える会」を結成し、保存運動を展開しました。この運動は全国的に報道され、注目を集めました。最終的には2代目校舎は保存され、小学校は新しい3代目校舎に移転しましたが、2代目校舎は耐震改修を経て複合施設として活用され、2009年5月より一般公開されています。
現在、豊郷小学校旧校舎群は町立図書館や子育て支援センターなどの複合施設としても活用されています。また、旧校舎は観光客にも広く公開されており、訪れた人々が自由に見学できるようになっています。壮麗な建築や歴史的背景を感じながら、校舎内を散策することができるのは大きな魅力の一つです。
旧校舎はその保存と観光によって、地域活性化にも大きく貢献しています。観光施設としてだけでなく、イベント会場としても利用され、地域の文化や歴史を発信する重要な場となっています。豊郷町は、今後もこの歴史的建造物を活用しながら、町全体の活性化を進めていく方針です。