北向岩屋十一面観音は、滋賀県東近江市猪子町に位置する、石仏とそれを祀る岩窟で構成された重要な観音霊場です。この観音像は、善勝寺の奥の院とされており、長年にわたって多くの信者から信仰を集めてきました。
北向岩屋十一面観音は、猪子山(標高268メートル)の山頂に位置しており、岩屋の中に安置された像高55cmの十一面観世音菩薩石像が特徴的です。この石仏は、奈良時代に安置されたと伝えられており、合掌の手に数珠をかけた珍しい姿をしています。古くからこの地に祀られ、地域の人々の信仰の対象となってきました。
平安時代には、坂上田村麻呂が鈴鹿の鬼賊大嶽丸を討伐する際に、この観音に武運を祈願したと伝えられています。そのため、北向岩屋十一面観音は戦勝祈願や厄除けの場としても有名になりました。
毎年7月17日には「千日会」という法要が行われ、この日は特に多くの参拝者が訪れます。地元の信者だけでなく、京阪神や中京地方からも多くの人々が参拝に訪れ、境内は大変な賑わいを見せます。さらに、10月17日には「北向観音祭り」が行われ、こちらも重要な行事とされています。
観音堂からは比良の山並みが一望でき、美しい自然の景色も楽しむことができます。参拝の後には、この景色を楽しむために訪れる人々も少なくありません。
北向岩屋十一面観音は、曹洞宗の善勝寺の奥の院とされており、寺院全体としても深い歴史を持っています。善勝寺は、聖徳太子によって創建されたと伝わり、坂上田村麻呂が再興したことでも知られています。元々は天台宗の寺院であり、70余坊を擁する大伽藍を誇っていましたが、織田信長の兵火によって焼失し、その後曹洞宗に改宗しました。
坂上田村麻呂が東夷征伐の後、この地に来て善勝寺を再興した際に、戦勝に因んで「善く勝った」ことから「善勝寺」と改められました。境内には田村麻呂が鈴鹿山の鬼の首を埋めたとされる「鬼塚」もあり、こちらも観光や歴史の一環として訪れる価値があります。
善勝寺は近江西国三十三箇所観音霊場の第二十番礼所としても知られており、札所巡りをする多くの参拝者が訪れます。また、近隣の観音正寺(十九番礼所)や長命寺(二十一番礼所)も同時に巡ることができます。これらの霊場巡りを通じて、地域の歴史と文化に触れることができるでしょう。
北向岩屋十一面観音へのアクセスは、JR琵琶湖線(東海道本線)能登川駅から徒歩約25分です。自然豊かな山中の道を進むため、軽装での訪問が推奨されます。また、公共交通機関を利用しやすく、訪れる価値のある観音霊場です。