長命寺は、滋賀県近江八幡市長命寺町にある天台宗系単立の寺院です。山号は姨綺耶山で、本尊は千手観音、十一面観音、聖観音の三尊を合わせた千手十一面聖観世音菩薩です。この寺は聖徳太子が開基したと伝えられており、西国三十三所の第31番札所として信仰を集めています。
長命寺は琵琶湖畔にそびえる標高333mの長命寺山の南西山腹(標高240m)に位置しています。かつて、巡礼者は三十番札所の竹生島宝厳寺から船で琵琶湖を渡り、麓の港に上陸して長命寺に参拝しました。
伝説によれば、第12代景行天皇の時代に武内宿禰がこの地で長寿を祈願し、「寿命長遠諸願成就」と刻んだ柳の木に祈りを捧げたことが起源です。その結果、宿禰は300歳の長命を保ったと伝えられています。その後、聖徳太子がこの地を訪れ、宿禰が刻んだ文字を発見。白髪の老人に導かれ、十一面観音像を彫ってこの地に安置し、寺を「長命寺」と名付けたと言われています。
確実な史料における長命寺の初見は、承保元年(1074年)の「奥島庄司土師助正畠地寄進状」という文書です。その後、元暦元年(1184年)に佐々木定綱が戦死した父の菩提を弔うために三仏堂を建立し、伽藍が整備されました。鎌倉時代を通じて、長命寺は近江守護佐々木六角氏の崇敬を受けて栄えました。
永正13年(1516年)、六角高頼と伊庭貞隆の対立により兵火が起こり、伽藍は全焼しました。しかし、室町時代から江戸時代初期にかけて堂宇は再建され、今日に至ります。なお、1951年に当時の八幡町に編入されるまで、長命寺山のある地域は蒲生郡島村に属していました。
長命寺は2015年(平成27年)4月24日に、「琵琶湖とその水辺景観- 祈りと暮らしの水遺産 」の構成文化財として日本遺産に認定されました。
長命寺の本堂に参拝するには、湖岸から808段の石段を登る参道を進む必要があります。登りには約20分ほどかかりますが、現在では本堂近くまで自動車でアクセスできる道も整備されています。このため、年配の方や体力に自信のない方でも気軽に訪れることができます。
境内の主要な建物は、瓦ではなく檜皮葺きやこけら葺きの屋根を採用しており、独特の趣を感じさせます。自然の素材を用いた屋根が、緑豊かな環境と調和し、落ち着いた風景を形成しています。
本堂の裏には「六所権現影向石」や「修多羅岩(すたらいわ)」と呼ばれる巨石があり、これらは古くから巨石信仰の名残とされています。かつて、人々は自然の巨石に神聖な力を見いだし、祈りを捧げていたとされています。
本堂は、室町時代の大永4年(1524年)に再建されたことが文書により確認されています。入母屋造、檜皮葺きで、桁行7間・梁間6間の和様仏堂です。柱の間の数で表現された構造が特徴で、奥行3間分が外陣、後方の奥行3間分が内陣および後陣となっています。
内陣には、秘仏である本尊を安置する厨子があり、厨子の外には毘沙門天立像(重要文化財)と不動明王立像が配置されています。また、この厨子も堂と同時代に造営されたもので、重要文化財の附として指定されています。
六所権現影向石は、伝説によると武内宿禰がここで祈りを捧げ、三百歳の長寿を得たとされています。歴史ある石として、参拝者に信仰の対象として崇められてきました。
護摩堂は、屋根上の露盤の銘から、慶長11年(1606年)に再建されたことが確認されています。宝形造の檜皮葺きで、本堂と三重塔の間に位置する方三間の小堂です。
三重塔は、慶長2年(1597年)に再建されたもので、全面に丹塗(にぬり)が施されています。この塔は和様の三重塔としては一般的ですが、初重の両脇間に連子窓を設けず、板壁とするなど、いくつかの特徴的な設計が施されています。
内部には胎蔵界大日如来像(安土桃山時代)と四天王像(鎌倉時代)が安置されており、大日如来像は天正17年(1589年)に作られたことが像底の銘から判明しています。
三仏堂は、元暦元年(1184年)に佐々木定綱によって建立されましたが、現在の建物は永禄年間(1558年 - 1570年)に再建されたと推定されています。また、江戸時代の寛政5年(1793年)に改造が施されています。
堂内には釈迦如来立像、阿弥陀如来立像、薬師如来立像の三仏が安置されており、これらが信仰の対象となっています。本堂のすぐ西側に位置し、入母屋造の檜皮葺きで丹塗が施された美しい堂です。
護法権現社は、本殿が江戸時代後期に建立された一間社流造の建物です。長命寺の草創にかかわる武内宿禰が祀られており、参拝者に長寿と繁栄をもたらすとされています。また、護法権現社拝殿は永禄8年(1565年)頃の建立とされ、重要文化財に指定されています。
鐘楼は、慶長13年(1608年)に建立されました。内部には中世にさかのぼる梵鐘が収められており、滋賀県指定有形文化財となっています。鐘楼自体は重層構造で、檜皮葺きの屋根と袴腰が付いた特徴的な建造物です。
境内には、如法行堂、天尊堂、太郎坊権現社といった多くの堂宇が点在しています。特に太郎坊権現社は、長命寺の総鎮守であり、寺の縁起によると、普門坊という僧が大天狗に変じて寺を守護するために祀られたとされています。ここからの琵琶湖の眺望は素晴らしく、観光客にも人気のスポットとなっています。
長命寺の本尊は、「千手十一面聖観世音菩薩三尊一体」と呼ばれ、千手観音、十一面観音、聖観音の3体が安置されています。これらは重要文化財に指定されており、平安時代から鎌倉時代にかけて作られたものです。通常は秘仏として厳重に管理され、一般公開はされていませんが、2009年には61年ぶりに開帳が行われました。
千手観音像は平安時代末期の12世紀頃に作られた一木割矧造の像で、素地截金仕上げが施されています。十一面観音像はそれより古く、10世紀から11世紀に作られたものであり、当初の本尊であった可能性も指摘されています。また、聖観音像は鎌倉時代に作られたものです。
長命寺は西国三十三所巡礼の札所としても有名で、古くから巡礼者が訪れています。2008年から2010年にかけて行われた「結縁開帳」では、千手観音、十一面観音、聖観音の3体が公開され、特に2009年10月には、多くの参拝者が訪れました。
長命寺への参拝は、808段の石段を登ることから始まりますが、時間のない方や足の不自由な方のために本堂の近くまで車でアクセス可能です。また、参拝すると長寿を得られるという言い伝えがあり、多くの参拝者がこの地を訪れています。
長命寺周辺には、琵琶湖の絶景を楽しむことができるスポットが多数あります。特に太郎坊権現社からの眺めは絶景で、琵琶湖の広がりを一望できます。また、麓にはかつての鎮守社である日吉神社もあります。
長命寺は近江八幡市の市街地から北に位置しており、車でのアクセスが便利です。また、湖岸の風景を楽しみながら、徒歩や自転車で訪れることもできます。公共交通機関を利用する場合は、近江八幡駅からバスでのアクセスが可能です。
長命寺は、その歴史的価値と伝説的な背景から、長寿を願う人々にとって特別な場所となっています。また、重要文化財としての建造物や巨石信仰の遺跡、琵琶湖の絶景を楽しめることから、訪れる価値のある観光スポットです。800段以上の石段や美しい自然環境、歴史的建造物が織りなす風景は、参拝者に深い感動を与えます。