百済寺は、滋賀県東近江市にある天台宗の寺院で、山号は釈迦山、本尊は十一面観音です。聖徳太子が開基とされており、金剛輪寺や西明寺とともに「湖東三山」の一つとしても知られています。境内は国の史跡に指定され、特に紅葉の名所として多くの観光客を集めます。
百済寺の創建は、推古天皇14年（606年）に聖徳太子が高句麗の僧・恵慈とともにこの地を訪れた際、山中で不思議な光を見つけたことがきっかけとされています。光の元をたどると、それは霊木の杉であり、太子はその杉を使って十一面観音像を彫り、堂宇を建てたと伝えられています。この寺は、百済の龍雲寺を模して建てられたため、百済寺と名付けられました。
平安時代に入ると、百済寺は比叡山延暦寺の勢力下に入り、天台宗の寺院となりました。湖東地方における仏教の拠点として、「湖東の小叡山」や「天台別院」とも呼ばれるようになり、北谷・東谷・西谷・南谷の4つの谷に1000を超える僧坊を持つ大寺院に成長しました。しかし、1498年と1503年に立て続けに火災に見舞われ、多くの建物や仏像、記録類が失われました。
戦国時代には一度復興しますが、1573年に織田信長の手による焼き討ちに遭い、再び全焼しました。しかし、幸運にも本尊である植木観音は難を逃れました。その後、1584年には堀秀政によって仮本堂が建立され、江戸時代には徳川秀忠からも寺領が安堵され、寺の復興が進みました。現在の本堂や仁王門は1650年に再建されたものであり、近世以降の姿を今に伝えています。
百済寺の本堂は、1650年に再建されたもので、入母屋造で檜皮葺きの建築です。この本堂は中世の密教仏堂の形式を保ちながらも、細部には近世の特質が見られる点で非常に貴重です。
鐘楼も、百済寺の重要な建造物の一つであり、東近江市の有形文化財に指定されています。
百済寺には、熊野三所権現を祀る三所権現社もあり、こちらも東近江市の有形文化財に指定されています。
昭和時代中期に造園された池泉回遊式庭園で、「天下遠望の名園」と呼ばれます。この庭園は、見事な景観を楽しむことができる名勝地として知られています。
百済寺には、多くの貴重な文化財が所蔵されています。特に注目すべきは、本尊である木造十一面観音立像です。この像は、奈良時代に作られたもので、滋賀県内で最も古い木造仏とされています。また、他にも絹本著色日吉山王曼荼羅図や黒漆蒔絵箱など、国指定の重要文化財が多数残されています。
百済寺の境内そのものが国の史跡に指定されています。これは、この地が古代から続く歴史的な価値を持つ場所であることを示しています。
百済寺には、東近江市の有形文化財に指定された赤門や鐘楼、熊野三所権現社などの建造物もあります。また、石垣が残る百坊跡、二百坊跡、七百坊跡も見どころです。
百済寺は、秋の紅葉の名所としても非常に有名です。境内を彩る紅葉の美しさは、観光客を魅了し、多くの人々が訪れる観光スポットとなっています。
百済寺ではかつて「百済寺樽」と呼ばれる清酒が作られていましたが、織田信長の焼き討ちによってその伝統は途絶えていました。2017年、444年ぶりにこの伝統的な清酒の復活プロジェクトが成功し、百済寺樽が再び完成しました。この限定商品は、歴史的な酒造りの技術を現代に蘇らせたものとして話題を集めました。
百済寺へのアクセスは、JR東海道線の能登川駅から近江鉄道バス「角能線」を利用し、百済寺本町停留所から徒歩約1.2kmの距離です。また、近江鉄道八日市駅からも「ちょこっとバス」が運行されており、アクセスに便利です。自動車で訪れる場合は、名神高速道路の八日市ICから車で約20分の距離にあります。
百済寺は、聖徳太子ゆかりの由緒ある天台宗の寺院であり、歴史的価値の高い文化財を多く有しています。特に紅葉の名所として有名で、秋には多くの観光客が訪れる人気のスポットです。また、444年ぶりに復活した「百済寺樽」も話題となり、歴史と文化が息づくこの場所は、訪れる価値のある観光名所です。