八幡堀は、滋賀県近江八幡市に位置する歴史的な水路です。この運河は、豊臣政権時代の天正13年（1585年）に造られ、八幡山城の城下町と琵琶湖を結び、商業都市としての発展に大きく寄与しました。全長は約4.75キロメートル、幅員は約15メートルに及び、その役割は現在でも市民の憩いの場や観光名所として続いています。また、近江八幡の水郷全体は「琵琶湖八景」の一つに数えられ、和船による遊覧なども楽しめる観光地となっています。
安土桃山時代、豊臣秀吉の甥である豊臣秀次が八幡山城を築城した際、琵琶湖と城下町をつなぐために八幡堀が開削されました。この水路は、城の防衛と商業的役割を兼ね備え、町の物流と発展に大きく貢献しました。八幡山城廃城後も、八幡堀は商業の要として機能し、近江商人の台頭により、町は大きな発展を遂げました。
江戸時代に入ると、近江商人たちは八幡堀を通じて商品を各地へ運び、「諸国産物回し」と呼ばれる独自の商法を展開しました。地元の産物を他の地域に送り出し、他国の産物を再び地元に持ち帰るという流通の中心として機能しました。この商法は、日本各地の産業振興にも貢献し、近江商人の哲学「三方よし（買い手よし、売り手よし、世間よし）」を確立するに至りました。
第二次世界大戦後、八幡堀は一時期、水運としての役割を失い、浚渫（しゅんせつ）作業も廃れてしまいました。昭和40年代には、汚水やゴミが堆積し、悪臭を放つまでに環境が悪化しました。しかし、1970年代に入ると、地元の青年たちの運動により八幡堀の再生が図られました。住民たちによる保存活動や、市民全体での清掃運動が展開され、堀はかつての美しさを取り戻しました。
1982年には国土庁の「水緑都市モデル地区整備事業」に指定され、堀の石垣が復元され、親水広場や遊歩道も整備されました。地元住民の協力により、ハナショウブの植栽や外来魚駆除などの活動も行われています。また、八幡堀を含む旧市街地一帯は1992年に「重要伝統的建造物群保存地区」として選定され、2006年には全国で初めて「重要文化的景観」に指定されました。
現在では、八幡堀は観光名所として多くの人々を魅了しています。和船での水郷めぐりは、静かな水面を進む舟の中から、白壁の土蔵や旧家が立ち並ぶ美しい風景を楽しむことができ、訪れる人々に江戸時代の情緒を感じさせます。また、八幡堀の風景は、江戸時代を舞台にした数々の時代劇のロケ地としても有名です。『暴れん坊将軍』や『鬼平犯科帳』、『剣客商売』など、歴史的な背景を持つ作品がこの地で撮影されています。
近江八幡の市民や行政、研究者たちは協力して八幡堀の保全活動を続けています。定期的に行われる清掃活動や、地域の人々による観光資源としての整備が進むことで、八幡堀は今後も美しい景観を保ち続けることでしょう。2005年には文化財保護法が改正され、八幡堀を含む近江八幡の水郷地域は、日本の景観保護の最前線に立つ重要な場所となりました。
八幡堀へのアクセスは、JR東海道本線・近江鉄道八日市線の近江八幡駅から、近江鉄道バス（長命寺行き）を利用し、八幡堀（大杉町）八幡山ロープウェー口停留所で下車することができます。また、八幡山ロープウェーも近くにあり、周辺の観光スポットと合わせて訪れることができる便利な立地です。