龍王寺は、滋賀県蒲生郡竜王町川守に位置する天台宗の寺院で、山号を雪野山といいます。本尊は薬師瑠璃光如来(薬師如来)で、古くから「ぜんそく寺」や「へちま寺」の愛称で親しまれています。歴史的背景や文化財に富み、古くから地域の人々に信仰されている由緒ある寺院です。
龍王寺は、和銅3年(710年)に元明天皇の勅願により、行基によって雪野寺(ゆきのでら)として創建されたと伝えられています。この古い寺院は、長い歴史の中でさまざまな変遷を経てきました。特に奈良時代には、「野寺」とも呼ばれ、周辺地域の信仰の中心地として栄えました。
雪野寺跡からは奈良時代の塑像の断片が出土しており、この地に古くから寺院が存在していたことを物語っています。また、寺には奈良時代に作られた梵鐘である「野寺の鐘」が伝わっており、この梵鐘には古くから伝わる伝説も残されています。
寛弘4年(1007年)、一条天皇は、寺の梵鐘「野寺の鐘」が霊験あらたかであることに感銘を受け、「龍寿鐘殿(りゅうじゅしょうでん)」の勅額を下賜しました。この出来事をきっかけに、寺号が「雪野寺」から「龍王寺」に改められました。それ以来、寺は龍王寺として知られるようになりました。
龍王寺には、国や地方から指定された重要な文化財が数多く保存されています。
龍王寺に伝わる最も有名な伝説は、奈良時代作の梵鐘「野寺の鐘」にまつわるものです。この鐘には、美女と大蛇の物語が伝えられています。鐘が火災時には水を噴き出したり、旱魃の際には雨乞いをすると慈雨をもたらすなど、数々の霊験が報告されてきました。
このような奇跡が広く知られるようになり、一条天皇もその霊験に感銘を受けたと言われています。
毎年旧暦8月15日の中秋の日には、喘息の病を治すとされる「へちま加持祈祷」が行われます。この祈祷は、龍王寺に古くから伝わる行事で、ぜんそくなどの病気をへちまに封じ込めるとされています。このため、龍王寺は「ぜんそく寺」や「へちま寺」としても知られ、多くの参拝者が訪れます。
龍王寺は、古くから多くの歌人にも影響を与え、いくつかの有名な和歌が詠まれています。以下はその一部です。
暮れにきと 告ぐるぞ待たで 降りはるる 雪野の寺の 入相いの鐘
この和歌は、龍王寺の鐘の音が夕暮れに鳴り響く情景を描写したものです。
鐘暗き 野寺の松の 木陰より 山ほととぎす 声ど落ちくる
鐘の音が山間に響く様子と、ほととぎすの声が重なる風景が描かれています。
昨日観し 花のあたりに 夜はあけて 野寺の鐘の 声ぞ聞こゆる
花の美しさを讃えつつ、夜明けに響く野寺の鐘の音が詠まれています。
龍王寺は、長い歴史を持ち、数々の文化財や伝説を有する滋賀県の名刹です。特に梵鐘「野寺の鐘」は、古代から霊験あらたかな存在として信仰されてきました。また、「へちま加持祈祷」などの伝統行事も行われており、地域の人々や観光客にとって重要な信仰の場となっています。歴史や文化に触れながら、自然豊かな環境で静かな時間を過ごすことができる龍王寺は、訪れる価値のある寺院です。
さらに詳しい情報や地図は、龍王寺の公式ホームページやオープンストリートマップで確認することができます。