琵琶湖疏水は、琵琶湖と京都を結ぶため、明治時代に作られた歴史的な水路です。この疏水は、滋賀県大津市から京都府京都市にかけて琵琶湖の湖水を流し、水力発電や灌漑、飲料水供給などさまざまな目的に利用されました。1996年には国の史跡に指定され、さらに日本遺産や土木学会選奨土木遺産としても認定されています。
琵琶湖疏水は、第1疏水と第2疏水の総称です。第1疏水は1890年に完成し、第2疏水は1912年に完成しました。琵琶湖疏水は、毎秒23.65立方メートルの水を滋賀県大津市三保ヶ崎から取水し、水道用水、灌漑、水力発電、工業用水などに利用されてきました。特に、水力発電は日本初の営業用発電所として設置され、京都の産業近代化に大きく寄与しました。
蹴上発電所は1891年に稼働を開始し、日本で初めての営業用発電所として注目されました。この電力は、日本初の電車である京都電気鉄道を動かし、さらに工業用動力としても利用されました。これにより、京都の近代産業の発展に大きく貢献しました。
琵琶湖疏水は、当初、琵琶湖と京都、さらに伏見・宇治川を結ぶ水運ルートとしても利用されました。疏水の落差を利用するため、蹴上と伏見の間にはインクライン（傾斜鉄道）が設置され、船を線路上の台車に載せて移動させました。これにより、物資や人々の輸送がスムーズに行われ、地域経済に大きな影響を与えました。
しかし、鉄道などの陸運の発展により、水運は次第に利用されなくなりました。最終的に、1935年には伏見行きの下り水運がゼロとなり、1936年以降、大津行きの貨物輸送も途絶えました。1948年には蹴上インクラインの運転も停止され、1951年に琵琶湖疏水を使った最後の舟運が行われました。
琵琶湖疏水は、無鄰菴や平安神宮神苑などの東山地区の美しい庭園に水を供給する役割も果たしており、その景観を支えています。また、京都御所や東本願寺の防火用水としても利用されるなど、疏水は文化的にも重要な役割を担っています。
琵琶湖疏水は、福島県の安積疏水や栃木県の那須疏水と並び、日本三大疏水の1つとして数えられています。これらの疏水は、日本の近代化において重要な役割を果たし、地域の発展に貢献しました。
琵琶湖疏水の建設は、明治時代の京都市の復興と産業の発展を目指して行われました。幕末の禁門の変で京都市は大規模な火災に見舞われ、さらに明治維新による東京奠都に伴い、人口減少と産業の衰退が進んでいました。このような状況を打開するため、第3代京都府知事の北垣国道が疏水の計画を立案しました。
琵琶湖疏水の設計と監督を担当したのは、工部大学校を卒業したばかりの田邉朔郎でした。彼は1885年に疏水の建設を開始し、1890年に第1疏水を完成させました。さらに、田邉はアメリカ視察の際に水力発電のアイデアを取り入れ、日本初の営業用水力発電所である蹴上発電所を設置しました。
第2疏水は、第1疏水の水量や電力需要を補うために1908年に着工され、1912年に完成しました。この新しい疏水は、京都市の水道供給を改善し、近代的な都市インフラの一部として重要な役割を果たしました。
琵琶湖疏水に伴う水力発電は、当初は水車の動力を利用する計画でしたが、アメリカ視察の結果、水力発電所が設置されることになりました。蹴上発電所は1891年に稼働を開始し、その電力は京都市内の工場や電車の動力として広く利用されました。
当初、琵琶湖疏水の水力を利用して、京都市内に工業団地を作る計画がありました。これは水車の動力を活用し、製造業を誘致するものでしたが、実際には水力発電が主流となり、この計画は大きく変更されました。
琵琶湖疏水が開通した直後は、物資の輸送手段として大いに利用されました。米や薪、呉服、塩などを積んだ疏水船が、琵琶湖と京都、さらに伏見を結び、大津市から京都市内、伏見への貨物輸送が盛んに行われました。最盛期には、年間で1万4千隻以上の貨物船と2万隻を超える客船が運行されていました。
しかし、陸運の発展、特に鉄道の普及により舟運の需要は次第に減少しました。伏見行きの水運は1935年に終了し、大津行きも翌年には廃止されました。最終的に1951年に行われた砂利輸送を最後に舟運は完全に終了しました。
現在では、琵琶湖疏水は観光資源として再評価されています。特に、春には桜が咲き誇り、観光客にとって人気のスポットとなっています。蹴上インクラインの跡地は整備され、疏水沿いの散策路や観光船なども運行され、地域の観光産業に貢献しています。
琵琶湖疏水は、明治時代の京都市再生の象徴であり、産業発展や水運、電力供給など多くの側面で重要な役割を果たしてきました。現在では歴史的な遺産として保存され、観光資源としても活用されています。疏水沿いの景観や歴史的建造物は、訪れる人々に日本の近代化の一端を感じさせる貴重な存在です。