堅田は、滋賀県大津市の北部に位置する歴史的な地名です。現行行政地名としては、堅田一丁目から二丁目、本堅田一丁目から六丁目、今堅田一丁目から三丁目に分かれていますが、広義には周辺地域である真野や仰木なども含まれます。この地域は、かつては旧堅田町として存在し、現在も大津市北部の拠点となっています。
堅田は琵琶湖の西岸に位置し、中世には水運の要衝として栄えました。背後には堅田丘陵が広がり、湖上交通が盛んだった時代には琵琶湖沿岸で最大の自治都市として発展しました。堅田の地理的特性は、古くからその重要性を支えてきました。
湖畔には有名な観光名所である「満月寺浮御堂」と「出島灯台」があります。浮御堂は『堅田の落雁』として「近江八景」の一つに数えられ、その美しい風景は今も多くの観光客を魅了しています。
堅田は古代、近江国滋賀郡に属していました。11世紀後半には、堅田の漁師たちが下鴨神社の支配下に入り、堅田御厨（かたたみくりや）と呼ばれる荘園が形成されました。さらに、比叡山延暦寺の荘園（堅田荘）が成立し、湖上交通や漁業の重要拠点となりました。
承久の乱後、堅田は佐々木信綱が地頭として支配することになりましたが、延暦寺や下鴨神社との対立が続きました。延暦寺は湖上関を設置し、他の船を排斥する一方、下鴨神社は漁業権や航行権を保障しました。この対立が続く中、堅田は水上交通の中心地としてさらに発展しました。
中世には、堅田荘に「堅田三方」と呼ばれる3つの惣組織が形成され、後に「堅田四方」として自治が行われるようになりました。地侍（殿原衆）や商工業者（全人衆）からなる堅田衆が自治を担い、堅田は湖上交通を支配する勢力として知られました。特に、殿原衆は「堅田船」と呼ばれる船団を保有し、水運を通じて地域を統治しました。
室町時代には、堅田衆が延暦寺から湖上関の運営を委任され、通行税を徴収する権利を獲得しました。また、臨済宗が広まり、武士階層の支持を得た祥瑞寺が堅田に創建されました。この寺は、後に一休宗純が修行した場所としても知られています。
一方、浄土真宗の本福寺も創建され、浄土真宗の信徒が増えました。特に本願寺8世蓮如は、延暦寺から迫害を受けた際に堅田に逃亡し、全人衆の支持を受けました。この結果、堅田門徒という強力な浄土真宗の信仰集団が形成され、地域の宗教的・政治的な影響力を高めました。
1468年、堅田は延暦寺による焼き討ちを受け、町のほぼ全域が焼失しました。この事件を「堅田大責」と呼びますが、住民は逃亡し、後に延暦寺との和解を経て帰還しました。この焼き討ちの後、堅田の指導層である殿原衆は権力を失い、全人衆が台頭しました。
戦国時代には堅田の自治が崩れ、織田信長が堅田船団の支配権を手に入れました。信長は堅田の内部対立を利用し、殿原衆と全人衆の勢力を調整しながら統治しました。堅田は経済的特権を維持しながらも、政治的な自治は失われていきました。
1698年、堀田正高が堅田1万石を領有し、堅田藩が成立しました。堅田藩は江戸時代を通じて地域の統治を行いましたが、琵琶湖沿岸の他の港の台頭や内部の対立によって次第に影響力を失いました。
1889年、滋賀郡本堅田村・今堅田村・衣川村が合併し、堅田村が成立しました。1901年には堅田町となり、1955年には周辺村と合併して新生の堅田町が誕生しましたが、1967年に大津市に編入され、自治体としての「堅田」は消滅しました。
堅田は現在も大津市北部の主要な住宅地として発展しています。JR西日本湖西線の開業以降、交通の利便性が向上し、多くの人々が堅田に居住するようになりました。また、琵琶湖畔の観光名所や自然環境もあり、観光地としても魅力を持っています。
堅田は歴史的な魅力と現代の住みやすさを兼ね備えた地域です。中世からの自治都市としての歴史や、琵琶湖の景勝地としての魅力は今も受け継がれており、観光地として訪れる価値が十分にあります。