義仲寺は、滋賀県大津市にある天台宗系単立の寺院です。山号は朝日山で、本尊は聖観音菩薩を祀っています。義仲寺は、1967年（昭和42年）に国の史跡に指定され、その境内全域が保護されています。
義仲寺は、平安時代末期の武将・源義仲（木曾義仲）に深く関わる寺院として知られています。源義仲の死後、その愛妾であった巴御前が彼の供養のために近くに草庵を結び、日々祈りを捧げたとされています。後に、この草庵が寺院となり、巴寺や無名庵、木曽塚などとも呼ばれるようになりました。寺は戦国時代に荒廃しましたが、近江守護・六角義賢によって再興され、その後も時代ごとに幾度か再建されています。
義仲寺の歴史は、源義仲の死後から始まります。巴御前が彼の墓の近くに草庵を結び、彼を供養したことから、その草庵が発展して寺院になったと伝えられています。このため、義仲寺は巴寺とも呼ばれ、鎌倉時代後期の文書にもその記録が残されています。
戦国時代には荒廃していた義仲寺ですが、1553年に近江守護の六角義賢によって再興されました。再び荒廃したものの、江戸時代に松寿という浄土宗の僧が義仲の墓を新たに建立し、小庵を義仲庵として再建しました。これにより、寺は園城寺の子院・光浄院に属するようになり、1692年には正式に義仲寺と改名されました。
俳人松尾芭蕉もこの寺と深い関わりを持っていました。芭蕉は義仲寺に頻繁に滞在し、句会を開いたり、地元の人々と親交を深めました。大坂で亡くなった芭蕉は「骸（から）は木曽塚に送るべし」という遺言を残し、1694年に義仲の墓の隣に葬られました。その後、芭蕉の門人たちによって寺は守られ続けました。
芭蕉の死後も義仲寺は蕉門俳諧の人々に支えられましたが、度々荒廃することもありました。1769年には京都の俳僧・蝶夢法師が数十年かけて中興し、再び寺は再建されました。芭蕉百回忌も寛政5年（1793年）に盛大に行われました。
1896年の琵琶湖大水害では大きな被害を受けましたが、1900年以降に復興が進みました。昭和期には再び荒廃の危機に瀕しましたが、1965年に篤志家の寄進により円満院から境内地を買い取り、寺は独立して再興されました。その後の整備も寄進により行われ、現在の義仲寺の姿が整えられました。
本堂は1979年に改築されました。朝日堂と呼ばれるこの本堂には、聖観音菩薩が祀られています。
翁堂は1858年に再建され、松尾芭蕉翁を祀る建物です。また、芭蕉の門人である曲翠（菅沼曲水）の墓も1973年に建立され、翁堂の周囲には俳諧の歴史が感じられます。
義仲寺の境内には、源義仲の墓や伝説の巴御前の墓もあります。義仲の墓は宝篋印塔が建てられており、義仲の死後長い歴史を経ても、その供養の精神は引き継がれています。
山吹塚は、源義仲の側室であった山吹御前の塚です。もともとはJR大津駅前にありましたが、1973年に現在の位置に移築されました。
無名庵は、松尾芭蕉が宿舎として使用した場所であり、俳諧の歴史が色濃く残る場所でもあります。
粟津文庫は1976年に再建され、身余堂文庫と共に歴史的な資料を保存する場所として利用されています。これらの文庫には、義仲や芭蕉に関する貴重な資料が収められています。
義仲寺には、再建に尽力したフィクサー三浦義一の墓があります。彼の尽力により、義仲寺は現在の姿へと再興されました。
文芸評論家である保田與重郎も義仲寺の再建に関わり、彼の墓もこの境内にあります。再建に携わった多くの人々が、この寺に眠っています。
義仲寺の境内は、1967年に国の史跡に指定されています。また、寺の中には貴重な文化財が多数保管されています。
義仲寺には、「紙本著色芭蕉翁絵詞伝」3巻が大津市指定の有形文化財として保存されています。この貴重な資料は、芭蕉翁の生涯を描いたものです。
竜ケ岡俳人墓地も大津市指定の史跡として認定されています。この墓地には、多くの俳人たちが眠っています。
義仲寺には、源義仲の木像や伊藤若冲の描いた天井画など、歴史的に貴重な文化財が多く保存されています。特に翁堂の天井画は、デジタル技術によって複製され、一般公開されています。
義仲寺の史料館は、貴重な資料を展示しており、月曜日を除く日には一般公開されています。訪れる際には、休館日に注意が必要です。