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居初氏庭園

(いそめし ていえん)

居初氏庭園は、滋賀県大津市堅田に位置する琵琶湖畔の美しい日本庭園です。園内には、書院「天然図画亭」(てんねんずえてい)があり、別名「天然図画亭庭園」とも呼ばれています。この庭園は、1981年に国の名勝として指定され、その歴史的価値と美しい景観が評価されています。

庭園の歴史と背景

堅田は、琵琶湖の西岸に位置し、古くから湖上交通の要衝として栄えてきました。中世には「堅田衆」と呼ばれる自治組織がこの地域を支配し、水上交通や漁業権、徴税などの特権を有していました。平安時代には、下鴨社の御厨として知られ、この地の旧家である居初氏は、その供御人(くごにん)の系譜を引いています。12 - 13世紀には「三党」と呼ばれる居初氏、小月氏、刀禰氏の三家がこの地に勢力を持ち、中世末期まで地域を支配していました。

堅田衆の衰退と再興

豊臣秀吉が湖上交通の自由通行を認めたことで、堅田衆の勢力は一時的に衰退しました。しかし、元和年間(1615 - 1624年)には、幕府へ請願した結果、居初家には再び舟運を取り仕切る権利が認められ、船道郷士(ふなどうごうし)と呼ばれるようになりました。この復活により、堅田の湖上交通は再び活気を取り戻しました。

居初氏庭園と天然図画亭の由来

居初家は、文化人との交流が盛んであり、特に茶人とのつながりが深かったことが知られています。現在残る居初氏庭園と書院「天然図画亭」は、茶人・藤村庸軒によって作られたもので、庸軒が天和元年(1681年)頃に詠んだ詩「題居初氏茶店」が残されていることから、この庭園と書院はその頃には完成していたと考えられます。作庭には、庸軒の門人であり、堅田の郷士であった北村幽安も関与しました。

「天然図画亭」の命名

「天然図画亭」という名称は、近江八幡の天台学僧・慈周(六如上人)によって名付けられました。この書院は、茶座敷としても使われ、居初家の文化的な集まりの場として機能していました。

庭園の設計と構成

居初氏庭園は、書院の北から東にかけて広がっています。庭園の中央には延段(のべだん)と呼ばれる自然石や切石を直線的に並べた通路があり、松、モッコク、ツツジなどが植えられています。東側には琵琶湖の湖面が広がり、その対岸に三上山(近江富士)などの山々が望め、これを「借景」として庭園の一部に取り込んでいます。この借景は、日本庭園の特徴的な技法の一つであり、自然の景観を庭園の延長として利用することで、庭全体に広がりを持たせています。

書院「天然図画亭」の構造

書院は、入母屋造茅葺の建物で、杮葺(こけらぶき)の庇が周囲を囲んでいます。書院の北面から東面にかけては、幅5尺の広い縁側が設けられ、そこから庭園の景色を楽しむことができます。また、北側には玄関があり、その奥には「中の間」が設けられています。玄関の右手には仏間があり、その奥には4畳半の部屋があります。書院の中央に位置する主座敷は、8畳の広さを持ち、茶室としても利用されています。障子を開け放つと、庭園の美しい景色が広がり、自然と一体となった空間が広がります。

点前座の特徴

茶室の南側には、1畳の点前座が張り出しており、炉は向切(むこうぎり)という配置で、逆勝手(さかがって)に作られています。点前座の中柱と東側の壁との間には、低い腰壁が設けられており、これが結界として機能しています。この点前座の設計は、珍しい趣向を持っており、茶道の作法や流儀を反映した独特の空間となっています。

庭園の現状と保存

居初氏庭園と書院「天然図画亭」は、歴史的な価値が高く、保存状態も良好です。書院は、幾度かの改修を受けており、その際には、創建当時の形式をできる限り復元するように修理が行われています。昭和56年(1981年)には、国の名勝に指定され、庭園と書院の美しさと歴史的価値が改めて認められました。現在も多くの観光客や茶道愛好家が訪れ、その魅力に触れています。

周辺の観光スポット

居初氏庭園は、琵琶湖畔に位置しており、周辺には多くの観光スポットがあります。庭園の見学の合間に、以下の場所を訪れることもおすすめです。

満月寺の浮御堂

満月寺の浮御堂は、琵琶湖の湖上に建つ美しいお堂で、その景観は特に夕暮れ時に幻想的です。

光徳寺

光徳寺は、歴史ある寺院で、地域の信仰の中心となっています。居初氏庭園からも近い場所にあります。

本福寺と祥瑞寺

本福寺と祥瑞寺は、歴史的な建造物と美しい庭園で知られる寺院です。庭園の散策後に訪れてみると、さらに深い歴史の趣を感じることができるでしょう。

湖族の郷資料館

湖族の郷資料館は、堅田の歴史と文化を学ぶことができる資料館です。堅田の湖上交通の歴史や、居初家の歩みを理解するのに最適な場所です。

その他の名所

野神神社や伊豆神田神社、出島灯台など、堅田には多くの歴史的な名所が点在しています。これらの場所も、居初氏庭園と合わせて訪れることで、堅田の魅力をより深く楽しむことができます。

交通アクセス

居初氏庭園へのアクセスは、以下の方法で訪れることが可能です。

電車でのアクセス

湖西線「堅田駅」から徒歩約20分。または、堅田駅から江若バスで「末広町」下車後、徒歩3分の距離にあります。

周辺の交通情報

堅田駅周辺には、観光に便利なバスやタクシーが利用可能で、他の観光地へのアクセスも容易です。

まとめ

居初氏庭園は、堅田の歴史と文化を感じながら、琵琶湖の美しい景色を楽しめる名勝です。庭園と書院「天然図画亭」は、茶道や庭園文化に興味のある方にとって、特に魅力的な場所となっています。堅田の他の観光スポットと合わせて、ゆったりとした時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。

Information

名称
居初氏庭園
(いそめし ていえん)

大津・比叡山

滋賀県