樹下神社は、滋賀県大津市木戸に鎮座する由緒ある神社です。主祭神として、玉依姫命をお祀りしており、古くから地元の人々に厚く崇敬されてきました。この神社は、比良山系の自然と調和し、その歴史的背景や祭事が地元の文化と密接に結びついています。
樹下神社の創祀は、正平3年(1348年)、木戸城主の佐野豊賢によって始められたと伝えられています。彼の手によってこの神社は木戸荘の惣社として崇敬され、その後も代々の城主や地元住民によって守られてきました。しかし、元亀の争乱(1570年代)により戦禍に見舞われ、一時荒廃した時期がありました。このとき、社殿は焼失してしまいましたが、天正6年(1578年)に再建されました。
神社の名前は元々「十禅師権現社」と称されており、日吉大社の樹下宮から勧請された「樹下大神」が祀られていました。しかし、地元の伝承では、実際には境内社である「峰神社」(祭神は比良明神)が本来の主祭神であり、比良山を神体山として崇めていたと言われています。天正の再建の際に、地主神と勧請神の立場が逆転したとされています。
明治に入ると、明治9年(1876年)に村社に列し、明治41年(1908年)には神饌幣帛料供進社に指定され、神社の格式がさらに高まりました。
古くから、比良山は地域の人々にとって特別な存在でした。神社の境内社である峰神社は、比良山の神を祀っており、比良山頂に奥宮があったとされています。この山は、古代より地域の守り神として仰がれ、「峰さん」や「峰権現さん」として親しまれてきました。
また、比良山は仏教の伝来とともに重要な役割を果たしました。東大寺の縁起にも登場し、さらに比叡山延暦寺の影響力が増すにつれ、比良神の信仰は次第に白鬚神社(白山権現)に引き継がれていったとされています。
樹下神社の最大の祭事は、毎年5月5日に行われる例祭です。この例祭では、5基の神輿が勇壮に町を練り歩き、「五箇祭」として地元で広く知られています。庄内五部落が参加するこの祭りは、古くから続く伝統的な祭事で、湖西地方の代表的な行事の一つです。
樹下神社の神紋は「左三ッ巴」で、これは神社のシンボルとして社殿や御輿などにあしらわれています。この紋章は、古代からの伝統を引き継ぎ、神社の歴史とともに大切にされてきました。
樹下神社の境内には、伝統的な建築様式を持つ多くの社殿や建物が存在します。主な建物は以下の通りです。
一間社流造の本殿は、間口一間、奥行一間の規模を持ち、古典的な神社建築の特徴をよく残しています。
拝殿は入母屋造で、間口四間、奥行三間三尺という広さがあります。この拝殿では、例祭や日常の参拝者が神に祈りを捧げる場所として利用されています。
樹下神社の境内には多くの境内社があり、それぞれに地域の信仰が深く根付いています。これらの境内社は、地元の住民によって大切に守られています。
樹下神社はその歴史的価値から、重要な文化財も保有しています。特に、神社の社殿や棟札は地域の歴史を物語る貴重な遺産です。
神社に残る棟札には、正平3年(1348年)の銘が刻まれており、この神社が非常に古い歴史を持つことを証明しています。棟札は、神社の歴史を語る重要な資料として、地域の人々から大切にされています。
樹下神社は大津市木戸地区に位置しており、比良山を望む自然豊かな環境にあります。湖西地方を訪れる際には、自然と歴史を感じながら参拝することができる神社です。最寄り駅やバス停からのアクセスも良好で、観光客にとっても訪れやすい立地です。
歴史ある樹下神社で、比良山の自然と古代から続く信仰の息吹を感じてみてはいかがでしょうか。