愛知川びんてまりの館は、滋賀県愛知郡愛荘町にある公共施設で、伝統工芸「びん細工手まり」をテーマにした展示を行っています。この館では、びん細工手まりの歴史や制作工程を学ぶことができ、映像や解説パネルを通じてその魅力を深く知ることができます。
びん細工手まり(びんさいくてまり、びんてまり)は、滋賀県愛知郡愛荘町(旧愛知川町)に伝わる伝統的な工芸品です。ガラス瓶の中に手作りの手まりが入っており、その手まりには繊細な刺繍が施されています。瓶の口よりも大きな手まりが内部に入っていることが特徴で、丸くて中がよく見える(丸く仲良く)ことから、縁起物として親しまれてきました。かつては嫁入り道具の一つとして、新婦が手作りしたびんてまりを持参する風習がありました。
びん細工手まりの歴史は江戸時代の終わりまで遡ります。愛荘町長野村に嫁いだ市橋つね(1856-1930)の嫁入り道具の一部として持参されたのが、この地に伝わる最古のびん細工手まりとされています。つねは、近江商人として名を馳せた市橋喜平の妹で、多賀町から嫁いできましたが、びん細工手まりの技術は多賀町には残されていません。
びん細工手まりは、明治時代には愛荘町内の裁縫教室で教えられており、特に勝光寺や信光寺での裁縫塾でその技術が広まりました。しかし、昭和に入るとその技術は次第に途絶えかけていました。昭和48年(1973年)、地元の新聞記者からの提案を受け、愛知川町教育委員会は技術の復元と保存に向けた取り組みを開始しました。地元有志による講習会が開かれ、その結果、「伝承芸能愛知川びん細工てまり保存会」が結成されました。
愛知川びんてまりの館では、常設展示のほか、毎年12月には新作のびん細工手まりを集めた特別展「びんてまり展」が開催されます。びんてまりの美しさと歴史を堪能できるこの施設は、隣接する愛荘町立愛知川図書館とともに「ゆうがくの郷」を形成しており、地域文化を体感できる場となっています。
愛知川駅に隣接するコミュニティハウス「るーぶる愛知川」では、びん細工手まりの販売が行われています。また、郷土物産展示コーナーでは、一部びんてまりも展示されています。びんてまりの価格はおおよそ19,000円から25,000円程度で、職人の手による美しい工芸品を手に入れることができます。
愛荘町では、びん細工手まりをモチーフにした和菓子がいくつかの和菓子舗で販売されています。たとえば、吉福庵では「びんてまり」というブッセが、しろ平老舗では「びん細工てまり」という葛羊羹が販売されています。抹茶味や小豆味といったバリエーションがあり、縁起物として人気があります。
「るーぶる愛知川」では、びんてまり柄のオリジナル風呂敷や麻ハンカチも販売されています。風呂敷は紺色と小豆色の二種類があり、びんてまりの絵柄がプリントされています。また、麻ハンカチは、湖東地域が麻織物の産地であることにちなみ、刺繍でびんてまりのデザインが施されています。愛荘町愛知川観光協会が企画し、滋賀県麻織物工業協同組合が製作しています。
愛知川びんてまりの館へのアクセスは、JR琵琶湖線の能登川駅から湖国バス(角能線)「市ヶ原」行きに乗車し、「愛知川駅前」バス停で下車後、徒歩約10分です。公共交通機関を利用して気軽に訪れることができる立地です。
びん細工手まりは、全国でも類似の工芸品が伝わっている地域がいくつかあります。例えば、山形県鶴岡市や山梨県一宮町、福岡県柳川市などでも同様の技術が伝承されていますが、愛荘町のびん細工手まりは特に独自性が高く、現在も保存会によって大切に受け継がれています。