西野水道は、滋賀県長浜市高月町西野に位置する余呉川の放水路で、地元の歴史と自然を深く知ることができる観光スポットです。特に、1845年に完成した初代の水路は滋賀県の史跡に指定されており、その価値と魅力は地域の文化遺産として評価されています。
西野水道は、余呉川の氾濫を防ぐために建設された放水路で、地域の防災に大きな役割を果たしてきました。完成当初から地元の人々にとって重要な存在であり、現在でもその歴史的な価値が認められています。以下では、西野水道の建設経緯やその役割について詳しく見ていきます。
かつて、余呉川は大雨のたびに氾濫を繰り返し、その流域に位置する集落に大きな被害をもたらしていました。特に、現在の長浜市高月町西野周辺は、地形の高低差から洪水のたびに浸水や飢饉に悩まされていました。特に、1783年（天明3年）、1786年（天明7年）、1807年（文化4年）の水害では、集落は壊滅的な被害を受けることとなりました。
この問題に立ち向かったのが、地元の充満寺住職であった西野恵荘です。恵荘は、洪水被害を軽減するためには琵琶湖に放水路を作る必要があると考え、1836年（天明7年）に彦根藩に工事の許可を得ました。恵荘は村人たちを説得し、放水路の建設を進めることになりました。
1840年（天保11年）、西野水道の建設が琵琶湖側から開始されました。能登から招かれた3人の石工の協力のもと、高さ1.5メートル、幅1.2メートル、長さ250メートルの放水路を計画しました。しかし、掘削は難航し、1841年（天保12年）には琵琶湖側からの掘削がわずか18メートル進んだところで岩盤に突き当たり、工事は停滞しました。
この困難な状況に直面した恵荘は、村人たちの協力を得て掘削を続けましたが、掘削速度は1日6センチが限界でした。1842年（天保13年）、工事の進行状況は非常に遅く、わずか64メートルしか掘れませんでした。能登の石工たちは賃金を受け取らずに帰郷しましたが、恵荘は新たな石工を探し続けました。
1843年（天保14年）、伊勢から新たな石工である長次右衛門、長助、文七が工事を引き継ぎました。困難な岩盤掘削は続き、1845年（弘化2年）5月には洞内が崩落しましたが、彦根藩からの支援を受け、工事は再開されました。ついに、同年6月3日、放水路が貫通し、9月1日に全長220メートルの放水路が完成しました。
1938年（昭和13年）、余呉川の改修工事が始まりましたが、太平洋戦争の影響で一時中断されました。戦後の1946年（昭和21年）に再び工事が再開され、1950年（昭和25年）には新しい放水路が完成しました。この2代目の放水路は直径4.6メートルで、初代の放水路と併用されていました。
1980年（昭和55年）には、1950年の放水路の南側に大規模な放水路が完成しました。この3代目の放水路は高さ10.3メートル、幅10.3メートル、全長286メートル、放水能力350トン/秒という規模で、現在も使用されています。初代の放水路は1984年（昭和59年）に滋賀県指定史跡に指定され、その歴史的価値が守られています。
初代の西野水道は、整備保全されており、無料で見学することが可能です。見学用の長靴、ヘルメット、懐中電灯が現地に用意されているため、訪れる際にはこれらの装備を使用して安全に見学することができます。ただし、洞内には照明がないため、懐中電灯は必須です。
西野恵荘は1778年に伊香郡古保利村で生まれました。幼名は恵厳で、幼少期から京都の高倉の学寮で学び、皆川棋園のもとで儒学を学びました。その後、地元に戻り、充満寺の11代目住職として多くの門下生を育成しました。詩歌や書道、宗学の優れた教育者としても知られ、その功績により井伊直亮大老から「上人」の称号を授けられました。
西野恵荘は、村の安全と発展を願い、自己の信念と情熱を持って放水路の建設に尽力しました。その努力が実り、初代西野水道が完成したことは、地域社会にとって大きな出来事でした。彼の献身的な行動は、現在でも地元で高く評価されています。
西野水道は、地域の歴史と自然を理解するための重要な場所です。その建設には多くの困難が伴いましたが、西野恵荘をはじめとする地元の人々の努力と献身によって完成しました。現在でも、その歴史的価値と防災機能は地域の誇りとして受け継がれています。滋賀県長浜市を訪れる際には、ぜひこの西野水道を訪れ、その歴史と魅力を感じてみてください。