松尾寺は、滋賀県米原市上丹生に位置する天台宗の寺院であり、普門山の山号と定光院（じょうこういん）の院号を持ちます。本尊には聖観音・十一面観音菩薩が祀られ、近江西国三十三箇所観音霊場の第13番札所として知られています。この観音像は、雲の中から現れたとされ、「飛行観音」の名でも親しまれています。
松尾寺の歴史は古く、寺伝によると白鳳9年（680年）、修験道の開祖とされる役行者（役小角）が、松尾寺山中（504メートル）で修行中に飛来した二体の観音像を洞窟に祀ったことに始まるとされています。創建当初は法相宗に属していましたが、平安時代には天台宗に改宗されました。
神護景雲3年（769年）には、僧宣教によって創建された霊仙七ヵ寺の一つとされ、当時は山岳信仰の中心として発展しました。平安時代には山岳修行の風潮が広まり、伊吹山の高弟である松尾童子が寺の復興に尽力しました。寺院は「一寺一院十八坊」と称され、多くのお堂や伽藍が立ち並びました。
松尾寺は湖北の要所に位置し、山頂からは湖北一帯を一望できます。中世には浅井亮政や石田正継などの湖北の豪族が支配し、寺に関わる古文書が数多く残されています。また、戦国時代には織田信長の兵火により本堂が焼失するも、御本尊が自ら飛び上がり、影向石に降り立って難を逃れたという伝説が伝わり、「空中飛行観音」として名を馳せました。
江戸時代には彦根藩主である井伊家の庇護を受け、寛文年間（1661～1673年）には新たな本堂が建てられました。この時代には五十余の院や坊があり、松尾寺村を形成し、村高は六十余石に達していました。また、特産の「松尾茶（旭山）」は、皇室や公家、武家への献上品としても評判を得ていました。しかし、明治初期には上丹生村へと合併され、寺の勢いは徐々に衰退していきました。
近代になると、飛行機の発展とともに「飛行観音」の名が注目され、戦時中には多くの航空隊員が出陣前に松尾寺を訪れて参詣したと伝えられています。昭和10年には秘仏御開帳が行われ、岐阜県各務原飛行学校から奉納された長さ約3メートルのプロペラが現在も保存されています。
昭和50年代の豪雪により、松尾寺の本堂は倒壊してしまいました。その後、環境保護や山林の保全活動が行われ、平成11年には第79世住職が急逝しましたが、現住職の尽力により平成24年に山麓に新本堂と資料館が完成しました。また、旧本堂跡地は滋賀県の史跡に指定され、参詣登山道沿いに残る丁石31基も米原市の有形文化財に指定されました。
松尾寺には、歴史的・文化的価値のある文化財が多く存在します。これらの文化財は、松尾寺の歴史を今に伝える貴重な遺産となっています。
松尾寺には国指定の重要文化財が複数あり、以下がその代表です。
滋賀県指定の文化財として、以下のような貴重な品々が松尾寺には収められています。
松尾寺には市指定の文化財もあります。以下はその一部です。
現在、松尾寺は歴史的な文化財と自然に囲まれた観光地として、参拝者や観光客を迎えています。山道沿いに整備された「七不思議遊歩道」は、松尾寺を訪れる人々にとって歴史を楽しみながら散策できるコースとなっており、四季折々の自然が楽しめます。
松尾寺へのアクセスは、公共交通機関や車での訪問が可能です。山間に位置しているため、天候に留意しての訪問をおすすめします。また、特別な行事や御開帳の際には多くの参拝者が訪れ、にぎわいますので、事前の情報確認をおすすめします。
所在地: 滋賀県米原市上丹生2054