鶏足寺は、滋賀県長浜市にある真言宗豊山派の寺院です。山号は「己高山（こだかみやま）」で、標高923メートルの山岳信仰の霊地に位置していました。現在、鶏足寺は伽藍が昭和8年（1933年）の火災で焼失し、廃寺となっていますが、重要な仏像は地元住民によって管理され、収蔵庫に安置されています。また、旧飯福寺（鶏足寺）は紅葉の名所として名高く、秋には多くの観光客が訪れます。びわ湖百八霊場の第30番札所でもあります。
鶏足寺が位置する己高山は、かつて天台系山岳仏教の聖地でした。古代から中世にかけて、山頂付近と西麓には多くの寺院があり、信仰の中心地として栄えました。しかし、近代以降、これらの寺院は山麓に移転したり、廃絶したりしました。『己高山縁起』という古文書によれば、己高山は奈良時代に行基と泰澄によって開かれたとされています。
鶏足寺は、己高山の中心寺院であった観音寺の別院として、天平7年（735年）に行基によって創建されたと伝えられています。その後、荒廃した鶏足寺は、延暦18年（799年）に最澄によって再興されました。文永6年（1269年）には、慈猛という僧が天台宗と真言宗の両方を兼ねていた寺を真言宗に改宗しました。
奈良・興福寺の文書には、鶏足寺を含む己高山の五箇寺として、法華寺、石道寺、観音寺、高尾寺、安楽寺の名が挙げられています。また、鶏足寺、飯福寺、円満寺が観音寺の別院として記されています。現在、鶏足寺跡は己高山の山頂近くに残っており、山麓の古橋地区から徒歩15分ほどの場所に「鶏足寺（旧飯福寺）」と呼ばれる寺跡があります。この寺跡は、秋の紅葉の名所として知られています。
鶏足寺の仏像は、己高山の文化財として重要な位置を占めています。これらの仏像は、山麓の古橋地区にある与志漏神社（よしろじんじゃ）の境内に収蔵され、公開されています。ここには、薬師堂、大日堂、己高閣（ここうかく）、世代閣（よしろかく）と呼ばれる2つの収蔵庫があります。これらの収蔵庫には、鶏足寺や関連寺院に伝わる仏像が保管されています。
己高閣は昭和38年（1963年）に地元有志によって建設され、鶏足寺の本尊である十一面観音像や七仏薬師像などが安置されています。一方、世代閣は平成元年（1989年）に建てられ、元は戸岩寺にあった仏像を収蔵しています。ここには、薬師如来像や十二神将像、菩薩立像（魚籃観音）、十社権現像などが安置されています。
以下に、鶏足寺に伝わる主要な文化財を紹介します。
平安時代、10世紀頃の作とされる木造十一面観音立像は、鶏足寺の本尊として知られています。
この仏像は、平安時代初期に作られたもので、作風や技法には奈良時代の影響が見られますが、体躯の太さや大腿部の量感を強調したモデリングは平安時代初期の特徴を示しています。法華寺の本尊とされていたことから、文化財としても高い価値があります。
平安時代初期に制作された木心乾漆十二神将立像は、十二尊の仏尊であり、薬師如来を守護する存在です。
七仏薬師如来像は、中尊のみが12世紀中期から後半に作られ、他の仏像は13世紀から15世紀にかけて制作されました。松虫寺（千葉県）や赤沢薬師堂（岩手県）と並び、七仏薬師像の代表的な作例の一つとされています。
この仏像は、9 - 10世紀に作られたとされ、魚籃観音として知られていますが、現在の像名は明確ではありません。平安時代初期の特色を持つ作風が評価されています。
鶏足寺の仏像の中には、木造十社権現像も含まれ、その文化的価値が高く評価されています。
鶏足寺や収蔵庫である己高閣、世代閣へは、JR北陸本線「木ノ本駅」からバスを利用してアクセスできます。バスを降りる「古橋バス停」から徒歩で15分ほどの場所に鶏足寺跡があります。また、古橋バス停から徒歩すぐの場所に己高閣および世代閣があります。
鶏足寺周辺は、秋の紅葉が特に美しいことで知られ、多くの観光客が訪れるスポットです。また、文化財に触れることができる己高閣や世代閣も見どころの一つです。歴史と自然が調和したこのエリアは、四季折々の風景を楽しむことができる場所として、地元の人々だけでなく、遠方からの観光客にも愛されています。