飯道神社(いひみちじんじゃ、はんどうじんじゃ)は、滋賀県甲賀市に位置する由緒ある神社です。かつては神宮寺であった「飯道寺」とともに修験道の霊場として広く知られていました。神社の公称は「いひみちじんじゃ」ですが、中世以降、飯道寺(はんどうじ)の読み方が広まり、それに伴って「はんどうじんじゃ」とも呼ばれるようになりました。地元を含め、多くの人々にこの名称で親しまれています。
伊弉冊尊(いざなみのみこと)、速玉男命(はやたまのおのみこと)、事解男命(ことさかのおのみこと)の3神が祀られています。しかし、元々は原始山岳信仰の対象である飯道神が祭られていました。後世に熊野修験道の影響を受け、熊野三山の神々が勧請され、現在の形になったと考えられています。
飯道神社は、標高664メートルの飯道山(はんどうさん)に鎮座しています。この山は古くから穀物神である宇賀御魂神と弁財天が習合され、飯道権現として崇められていました。また、飯道山の水源に対する民俗信仰もあり、山麓の住民による分水信仰が存在していたことが知られています。
和銅年間(708年〜715年)に熊野本宮から分霊されたと伝えられています。さらに、宝亀2年(771年)には天皇の勅符により封戸1戸が与えられました。また、『三代実録』によれば、元慶8年(884年)には従四位下に昇階する記録が残されています。奈良時代には、信楽杣の森林資源を管理する役割も担っており、東大寺の二月堂守護神としても信仰を集めました。
久安2年(1146年)には「飯道権現」として勅額が下され、甲賀郡の住民からも深く崇敬されました。さらに、戦国時代には甲賀忍者の修行場としても知られており、その神秘的な力を信じる者たちが集ったと言われています。
明治時代の神仏分離令により、かつての神宮寺であった飯道寺は廃寺となり、飯道神社は村社に列せられました。山全体が花崗岩で形成されており、1951年(昭和26年)に再興された飯道山行者講の修行場としても機能しています。山中には、かつての遺構として飯道寺跡や行者堂、弁天堂、木喰上人応其墓などが残されています。
飯道神社の本殿は、国の重要文化財に指定されています。1925年(大正14年)4月24日に指定され、1649年(慶安2年)に再建されたものです。入母屋造りで檜皮葺きのこの建物は、1975年から1978年にかけて解体修理工事が行われ、現在の姿に修復されました。さらに、1982年(昭和57年)2月16日には、宮殿(くうでん)3基、棟札2枚、銘札4枚、古材3点が追加で附指定されています。
飯道神社には、1038点の懸仏が所蔵されており、これらも文化財として保護されています。懸仏とは、仏像の姿を彫りつけた銅鏡や金属製の仏像を指します。最古の懸仏は建長4年(1252年)のもので、これらは1979年(昭和54年)に滋賀県指定有形文化財に指定されました。また、関連する遺品も70点保管されています。
飯道神社には、平安時代後期に制作された毛彫阿弥陀如来像も伝えられています。この仏像は、その繊細な彫刻技術と歴史的価値から、重要な文化財として大切にされています。
飯道山は、その地形や岩石によって、修験者たちの修行場としても名高い場所です。1951年に再興された飯道山行者講により、再び修行場としての役割を果たしています。山内には、西覗き岩、不動押し分け谷、蟻の塔渡し、胎内くぐり、鐘掛岩などの奇岩が点在しており、これらの奇岩を巡る修行が行われています。また、行者堂や五院跡といった往時の遺構も多く残されています。
実は、滋賀県にはもう一つの飯道神社があります。それは、湖南市に鎮座する飯道神社(いいみちじんじゃ)です。こちらは、主祭神に素盞鳴尊を祀り、菅原道真を配祀しています。元々は現在の湖南市役所東庁舎付近に存在していましたが、明治6年(1873年)に現在地に遷座されました。この2つの神社は、同じ「飯道神社」という名前を持ちながらも、それぞれ異なる歴史と役割を持っています。
所在地: 滋賀県甲賀市に位置し、最寄り駅からはバスやタクシーでのアクセスが便利です。甲賀市の自然豊かな山間部にあり、ハイキングや自然観光を楽しむ人々にも人気の場所です。
飯道神社とその周辺地域には、多くの見どころが点在しています。特に、飯道山の自然景観は四季折々に美しい風景を楽しめるため、訪れるたびに新たな魅力を発見できるでしょう。また、神社自体の文化財や歴史的な建造物も、歴史愛好者にとっては見逃せないポイントです。
甲賀市周辺には、他にも観光名所が多く点在しています。甲賀流忍者の歴史を体験できる「甲賀流忍術村」や、信楽焼で有名な信楽町など、観光を楽しみながら歴史に触れることができるエリアです。
飯道神社では、年間を通じて様々な祭りや行事が行われています。特に、毎年秋に行われる例祭では、地元の住民や観光客が一体となって神輿を担ぎ、にぎやかな雰囲気の中でお祭りが進行します。伝統的な祭りに触れることができる絶好の機会です。
飯道神社は、その歴史や文化財、そして自然の美しさから、多くの人々に愛される神社です。修験道の霊場としての側面も持ちながら、地域の信仰や観光資源としても重要な役割を果たしています。訪れる際には、その深い歴史と美しい自然を存分に楽しんでください。